医療情報

内科:山北 宜由
低カリウム血症と高血圧症の合併は降圧利尿剤使用時に遭遇することが最も多いが、今回は、鉱質コルチコイド(MC)過剰あるいはMC作用の増強によるもの、更には、MC作用の増強と類似した病態ついて概説する。

原発性アルドステロン(Ald)症

本症では副腎皮質からAldの過剰分泌が生じ、腎集合管でのNaの再吸収の増大に伴う循環血漿量の増加とKの尿中への排泄増加により、低K血症と高血圧をきたす。現在副腎の病理学的所見や遺伝子異常から9種類のサブタイプに分類されるが、古くから、副腎皮質腺腫によるもの(APA)、両側副腎皮質過形成(特発性Ald症IHA)、グルココルチコイド奏効性Ald症(GRA)の3者がよく知られている。Connは1955年の第一例目の報告後、高血圧患者の20%がAPAであるとしたが、その後の検討から、全高血圧患者の0.5%以下を占めるに過ぎない比較的稀な疾患とされてきた。 しかし、昨今のYoungやGordonらの報告では、原発性Ald症は、それぞれ全高血圧患者の20%、10%を占めるとされている。西川らの本邦人における報告でも6.4%を占めるとされており、更に、このうち低K血症を示したのは、わずか18%にしか過ぎず、低K血症だけを目安にしていては本症を見落とすとされるようになった。 また、CTでも直径6mm以下の副腎腺腫は描出されないことが多い。

image01 図1:原発性アルドステロン症における

PA/PRA比 一方、IHAでは副腎肥大の判定が微妙であり、現在のところ本症のスクリーニングについては、血漿Ald値(PAC; ng/dl)と血漿レニン活性(PRA; ng/ml/h)の比が25~30以上をもって異常と考え(図1)、フロセマイド負荷後立位負荷検査、生理的食塩水負荷試験等の精密検査を行うのが最も良いとする意見が多い。 しかし、Kaplan, Nはその著書であるKaplan’s Clinical Hypertension(8th Edition2, 2002)の中で、The Aldosterone renin ratio (ARR) is not a suitable test because it primarily reflects a low level of plasma renin activity (PRA). The ARR became popular because it is so simple, but blind use of the ARR can be misleading. Rather than using a potentially misleading ratio, clinicians should simply look at the plasma aldosterone and PRA levels: If the plasma aldosterone is high and the PRA suppressed, the patient should be further evaluated for primary aldosteronism. と述べており、PACと血漿レニン活性の比だけに頼ったスクリーニングに警鐘を鳴らしている。また、たとえ内分泌学的に原発性Ald症が考えられても、画像診断で病変部位が判然としない時は、左右副腎静脈採血によるPAC測定が必要で、同時にコルチゾール(F)を測定して、副腎静脈へのカテーテル挿入が確実であったことを確認しなければならず、特に右副腎静脈は大静脈に直接流入するため、カテーテル挿入とそこからの採血には、技術的熟練さが要求される。 しかし、実際の臨床において、高血圧患者が全く未治療で受診した場合はともかく、既に降圧剤が投与されており、かつ、利尿剤、βブロッカー、ACE阻害剤、アンギオテンシン受容体拮抗剤等は、レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系(RAA系)に影響を与えるため、原発性Ald症でのRAA系の異常なのか、これら薬剤のための異常なのかの鑑別がしづらいことが多い。また、これら薬剤は短期間の投与中断では、そのRAA系に及ぼす影響は完全になくなるとはいえず、その間、RAA系の検査をするため、薬剤中断のまま高血圧を静観してよいか否かの判断に迷うこともしばしばある。 IHAはその病因が依然不明であるが、低カリウム血症の程度、レニン抑制の程度もAPAより軽度であることが多い。従って、前述の立位負荷試験では、レニンが反応して増加を示すものもある。APAとの大きな違いは、APAのPACがACTH依存性に朝高値で夜低値の日内変動を示すが、IHAでは日内変動を示さないことである。IHAの治療は鉱質コルチコイド受容体拮抗剤のスピロノラクトンによるが、カルシウムチャンネルブロッカーを追加する必要のある場合も多い。低カリウム血症が残存する場合はカリウム製剤の補充を行う。 GRAについてはLiftonらによりAld合成酵素遺伝子(CYP11B2)と11β水酸化酵素遺伝子(CYP11B1)との間の不均等交叉による遺伝子異常が原因であると究明され、N端部分がACTHの刺激に反応し、生じているキメラ遺伝子がこのACTHの刺激に反応してAld合成を促進することにより生ずる、極めて稀な疾患である。理論上、デキサメサゾン等の糖質コルチコイドの投与でACTHを抑制することによって、Aldの過剰産生は抑制されるが、必ずしも血圧のコントロールが順調にできるわけではないとされる。

腎血管性高血圧症

腎動脈狭窄による腎動脈灌流圧の低下とそれによるレニン分泌の増加、尿細管中Na濃度の低下、アンギオテンシンII の増加、更にはAldの増加により、高血圧、低K血症が生ずる。本症の原因は、多岐にわたるが、ほぼ80~90%は動脈硬化性の内腔狭窄で、残り10~ 20%が線維筋性異形成によるものと考えてよい。しかし、おそらく、60歳以上の人の50%以上に腎血管病変は存在すると考えられるが、腎動脈内腔が30%以下にならないと高血圧を起こさないとする報告もあり、腎血管病変すなわち腎血管性高血圧症ではないことは留意すべきである。 腹部血管雑音、腎の左右差が1.5cm 以上ある場合、治療抵抗性の高血圧、急激な高血圧の悪化、等の臨床症状のある場合は、本症を疑わなければならない。また前述の機序により、低K血症を生じ得るが、10-20%程度の発症率であり、必発所見ではない。更に、過剰なレニン分泌があるとはいえ早朝空腹時のPRAが高値を呈するのは約50%程度とされている。カプトプリル50mgを投与してPRAの過大増加をみるのと同時に、その際レノグラムを撮影すると、狭窄側のレノグラムはより明確に異常を示し(図2)、スクリーニングに優れている。なお、カプトプリル負荷試験の場合、種々の診断基準が報告されているが、1例を挙げると、常食で投薬のない状態で、カプトプリル投薬1時間後のPRAが12ng/ml/h以上、かつ、前値より10ng/ml/h以上で150%以上の増加の際、陽性とする。現在、病歴から本症を疑った場合、以上の方法より、MR血管撮影や三次元CT(図3)での腎動脈狭窄の描出がより優れているとする意見もあるが、腎動脈分枝狭窄までの描出は直接造影検査が必要である。 治療に関しては、線維筋性異形成によるものでは、PTRAが良い成績を示す。動脈硬化性の腎動脈狭窄については、PTRA、外科的腎血管再建術、ACE阻害剤(ACE-I)、アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)など、症例を選んで治療法を選択するが、どれが最も有効であるかは症例によって異なると思われる。特に、ACE-I、ARBにより急激に血圧低下、腎血流量低下を生じると、腎機能の急激な悪化が生じ、注意が必要で、他剤投与の方が良い場合がしばしばある。  

image02 図2:Renography in a 42 Year-Old Man with RVH due to Stenosis of The Left Renal Artery

image03 図3:線維筋性異形成による腎血管性高血圧症のMD-CT像

偽性Ald症

image04 図4:Apparent mineralocorticoid excess (AME)の病体生理

(AME)の病体生理 甘草は種々の食品の甘味料として大量に使用され、甘草の主成分のグリチルリチン酸(glycyrrhizic acid; GA)は肝疾患、アレルギー疾患治療薬として頻用される。1968年GA投与により、原発性Ald症類似の低K血症と高血圧が出現することがConnらによってlicorice-induced pseudoaldosteronismとして報告された。本症では、PRAは抑制され、PACも低値である。一方、全くこれと同様の症状をきたす先天性の遺伝子異常症にapparent mineralocorticoid excess syndrome (AME症候群)がある。Aldは細胞内のMC受容体(type 1)に結合してMC作用を発揮するが、この受容体はFとも同等の親和性を示す。AldとFの血中濃度比は1:1000程度とFが遥かに高濃度を示す。しかし、Aldが作用する部位にはFを不活性のコルチゾン(E)に変換する11β水酸化ステロイド脱水素酵素(HSD11B2)が存在し、FをEに変換している。すなわちHSD11B2は生体内で遥かに高濃度に存在するFを非活性化することにより、Aldがその標的臓器で選択的にMC受容体に結合できるようプロテクトする役割をしている。AME症候群ではHSD11B2遺伝子の異常によりFのEへの変換ができず大量のFがMC受容体に結合してMCとして働く(図4)。GAはHSD11B2を競合的に抑制する他、HSD11B2のmRNAの転写以前の段階で合成そのものを抑制するとの報告もあり、AME症候群と同様の症状を惹起する。
一方、上記2者以外に、常染色体性優性遺伝を示し、同様の症状を呈するLiddle症候群がある。Ald以外のMC過剰産生もなく当初Liddleは本症をpseudoaldosteronismと呼んだ。本症の治療には、MC受容体拮抗薬のスピロノラクトンは効果なく、腎尿細管上皮性Naチャンネル阻害剤であるトリアムテレンが有効である。Naチャンネルにはα、β、γのサブユニットがあるが正常のNa輸送にはα/βかα/γの作用が必要で、本症ではβあるいはγ遺伝子の突然変異が生じて、Naチャンネルが過剰活性を示している。このためNa 再吸収増加と循環血漿量増加による高血圧、低K血症、更に低レニン血性低Ald症が生じる(図5)(図6)。 以上は、日本内科学会北陸支部第29回生涯教育講演会(平成15年6月15日)における講演要旨をまとめたものである。)

image05 図5:Liddle症候群における病態生理

image06 図6:Liddle症候群、偽性低アルドステロン症(I型)における遺伝子以上部位

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