医療情報

松波総合病院 花立 史香

乳がん増加の背景

日本では、乳がんは1996年以降、女性の悪性腫瘍の部位別罹患数で1位となっています。毎年3万5千人から4万人が乳がんに罹患すると推定されており、日本女性の約25人に1人が乳がんに罹患する計算になります。発症のピークは45歳から49歳です。乳がんと診断された方の30%が乳がんを原因として死亡しており、毎年約1万人の方が亡くなられています。また65歳未満の比較的若い世代で女性の癌死亡の第1位となっています。 乳がんは診断時の病期によって生存率が大きく異なり、0-1期の場合であれば5年生存率は90%を超えますが、4期であればわずかに約10%です。早期発見・早期治療が乳がん患者さんには大切なのです。 乳がんのリスク因子(乳がんに罹りやすくする危険な要因)には腫瘍抑制遺伝子の欠損、12歳未満での初潮、55歳を超えての閉経、高年齢での出産、妊娠経験や授乳経験のないこと、若年期または多数回の放射線暴露、長期間のホルモン補充療法、乳房密度の増加、社会経済上の地位が高いこと、閉経後の肥満、食事とくに動物性脂肪や蛋白質の摂取量が増加し、炭水化物と線維の摂取量の減少などです。

乳がんについて

乳がんとは

乳房は乳頭を中心に乳腺がぶどうの房のようにひとつの腺葉をつくって、放射線状に約15個並んでいます。その腺葉の細かい乳管の上皮細胞からほとんどの乳がん(90%)は発生します。ごく一部の乳がんは小葉の上皮細胞から発生します。

乳がんの種類

乳がんは大きく分けて非浸潤がんと浸潤がんに分けられます。非浸潤がんは基本的に転移しないがんですので、手術のみで治る可能性が高いがんです。浸潤がんは転移の可能があり、多くの場合、手術のみに頼るわけにはいかず、薬物療法(抗がん剤、ホルモン剤)、放射線療法等を用いて治療を行う必要があります。

乳がんの診断について

乳がん診断のための検査手順は下記の通りです。

1.視触診

診断の基本です。乳房全体と脇の下を診察します。乳房はしこりの有無、大きさ硬さ等、脇の下はリンパ節の腫れを中心に診察します。

2.マンモグラフィ(乳房レントゲン検査)

乳房を圧迫することで放射線の被爆量を減らし、かつ乳房の中の乳腺をより明瞭に透視できます。触診では解らないような小さな腫瘤(しこり)や石灰化像を見つけるのに役立ちます。圧迫の際多少の痛みを伴いますが、頑張りましょう。

3.超音波検査

やはり触診では見つけられないような小さな腫瘤やマンモグラフィで解らないような腫瘤もとらえることが出来る場合があり、マンモグラフィと相補的に行われる検査です。

4.MRI検査

マンモグラフィや超音波検査では良性、悪性(がん)の区別がつきにくいときに行います。がんそのものの診断やがんの広がりを診断するのに有効です。

5.穿刺吸引細胞診検査

触診や超音波検査等で腫瘤がみつかったときなどに細い注射針を刺して吸引を加えて細胞を採取し、良・悪性の判定を行います。

6.生検

穿刺吸引細胞診やその他の検査で診断が困難な場合は腫瘤を皮膚を切開して切除し検査することがあります。最も信頼の置ける検査です。

乳がんの治療について

乳がんの治療は手術療法、抗がん剤による薬物療法、放射線療法によって行われます。

1.手術療法

手術の目的は乳房内の腫瘍と腋窩(脇の下)リンパ節を必要十分に切除することです

乳房の腫瘍切除

乳房温存手術と乳房切除手術とがあります。乳房温存手術では腫瘤から約2cm離したところで、乳房を円状に切除します。手術中に、その切り口を調べることによってがんが十分とりきれているか迅速病理組織検査を行いがんの根治性をより確実なものにします。とりきれない場合は乳房切除術に変更になります。乳房の切除で傷の大きさ・場所は大きな問題です。当院では出来るだけ目立たない場所に小さな傷で手術が出来る様に内視鏡を用いた手術方法も取り入れています。乳房温存手術を受けられた方は原則として温存乳房に放射線を照射します。

参考

乳房温存療法の適応はガイドラインによれば以下の様に考えられています。『根治性と整容性(術後の乳房の形がいかに手術前の状態を保てるか)を両立させることがポイントであるが、適応となる腫瘍径は3cm以下で、良好な整容性が保たれるのであれば4cmまで許容される。多発の場合は2個までが一般的にすすめられる。また大きな腫瘍の場合でも術前化学療法で小さくしてから行うことは可能である』。

腋窩リンパ節郭清(リンパ節を広範囲に取り除くこと)

乳がんのリンパ節の切除の目的はひとつには脇の下のリンパ節に跳んだがんを取り除き将来その部位のがんが成長してくることがない様にすることと、もう一つはリンパ節のがんの転移の有無を知ることによって手術後の再発の危険の度合い(再発率)を予測することが可能になるからです。もし転移が見つかった場合には再発の危険を少しでも減らすために術後の薬による治療が必要になります。しかしリンパ節の郭清は術後の腕のむくみや脇の下の知覚障害をひき起こす可能性があります。その後遺症を少しでも減らすため現在当院ではセンチネルリンパ節の考えを導入し、臨床研究を始めています。症例数はまだ多くはありませんが100%近い同定率で、臨床応用へと進む段階にあります。

センチネルリンパ節

現在までの研究で、乳癌の患者さんの約40%が脇の下のリンパ節に転移していることが明らかになっています。したがって残りの60%の患者さんではリンパ節に転移がないことになります。しかし現在の検査では手術する前に転移していないことを正しく診断することはできませんので、患者さんの脇の下のリンパ節を広い範囲で取り除くことが標準的な手術となっていました。最近の研究ではセンチネルリンパ節というものを数個とって調べることで脇の下のリンパ節に転移があるかどうかを診断できるとの報告が多く発表されてきています。この報告が正しいとすれば転移のない約60%の患者さんは不要な脇の下のリンパ節を取り除く手術を避けられる可能性があります。これらの研究は現在、日本をふくむ世界中の施設で行われつつあります。センチネルリンパ節:癌が一番最初に転移するリンパ節のことです。このリンパ節を調べることで他のリンパ節の転移の有無を推測することができます。センチネルリンパ節をみつける方法:手術前に乳房のしこりの周囲にアイソトープ室で診療用放射性同位元素(アイソトープ)を注射し、シンチカメラで写真を撮ります。手術時に、ガンマプローブ(放射線を検出する装置)で位置を確認してセンチネルリンパ節を切除します。この際にリンパ節の発見をより容易にするために色素を手術直前に、やはりしこりの周囲に注射します。切除したセンチネルリンパ節は顕微鏡検査で癌の転移を調べます。もしこのリンパ節に転移がないことが解れば、それ以上のリンパ節を取らず手術を終了することも可能です。リンパ節に転移があった場合にのみ広くリンパ節を切除すれば良いのです。
注意
乳房に注射する放射性同位元素の放射線量は通常の検査で使用する放射線量の10-20分の1程度であり、人体への安全性には問題がありません。色素も人体にはほとんど問題がないといわれています。

乳房再建術

乳房再建術は現在では保険で行える手術となっています。乳房再建術といっても下記のごとく手術方法は様々です。当院では患者さんと相談の上、個々に合った再建法を相談の上行っています。
  • 人工物を使用する方法(通常生理食塩水の入った袋状のものを使用します)
  • 自分の組織(筋肉や脂肪)を使用する方法腹直筋脂肪弁法 腹直筋およびその周囲にある脂肪を皮下のトンネルを通して胸部に移動させ乳房としてのボリュームに利用します。
  • 広背筋脂肪弁法 広背筋(背中にある筋肉)およびその周囲にある脂肪を前方に移動させ乳房としてのボリュームに利用します。

2.薬物療法

最近の乳癌の治療法では、手術と同じ位、薬による治療の重要性が高まってきています。世界的になガイドライン(St. Gallen 2005)に基づいた治療が現在日本でも推奨され行われつつあります。大きく科学療療と内分泌治療に分けられます。

化学療法

抗がん剤を使用する治療法です。術前化学療法、術後補助化学療法、再発治療に使用します。術前化学療法は乳がんが大きく乳房温存療法が困難な患者さんに行うことにより、癌を小さくして乳房温存治療を可能性を高めるという治療です。術後化学療法は手術は受けられたけど再発の可能性のある患者さんに、少しでも再発率を下げる目的で行われます。再発治療でも抗がん剤は薬物療法の中心となります。それぞれの患者さんに合った薬を選択し、効果・副作用を考慮して生活の質(QOL)を出来るだけ犠牲にしないよう使用します。当院で行っている標準的な化学療法を以下に紹介します。実際に使用する際には国際的なガイドライン(St. Gallen 2005)に従い再発のリスクに応じ、使い分けています。

CMF療法

抗がん剤(C:サイクロフォスファミド、M:メソトレキセート、F:5FU)を使用した化学療法です。投与方法は4週を1サイクルとして最初の2週に二回点滴および二週間の内服を行い、残りの二週間は休薬期間とします。通常6サイクルを行います。投与期間中は採血やX線検査を適宜行います。副作用は以下の通りです。
  • 嘔吐(1-3日後):まえもって予防薬を投与します。
  • 白血球減少(1-2週後):採血を行い調べます。抵抗力が弱まり、感染を起こしやすくなります。場合によっては白血球を増やす薬を注射たり、また治療を延期することもあります。発熱等を認めた場合は入院が必要となることもあります。
  • 脱毛(3-4週後):投薬が終了したら、再び3-6ヶ月で元に戻るのが普通です。
  • 貧血、血小板減少(2-3週後):骨髄が抗がん剤に障害されるためにおこります。治療を延期することもあります。
  • 爪の変形、指先の着色・しびれ(4週後):治療が終了すれば元に戻ります。
  • 肝臓腎臓の機能障害:まれに起こりますが程度は軽いことが多いです。

CEF療法

抗がん剤(C:サイクロフォスファミド、E:エピルビシン、F:5FU)を使用した化学療法です。3週間に一回の注射となります。これを1サイクルとして通常6サイクルを行います投与期間中は採血、X線検査を適宜行います。副作用は以下の通りです。
  • 嘔吐(1-3日後):まえもって予防薬を投与します。
  • 白血球減少(1-2週後):採血を行い調べます。抵抗力が弱まり、感染を起こしやすくなります。場合によっては白血球を増やす薬を注射したり、治療を延期することもあります。発熱等を認めた場合は入院が必要となることもあります。
  • 脱毛(3-4週後):投薬が終了したら、再び3-6ヶ月で元に戻るのが普通です。
  • 貧血、血小板減少(2-3週後):骨髄が抗がん剤に障害されるためにおこります。治療を延期することもあります。
  • 爪の変形、指先の着色・しびれ(4週後):治療が終了すれば元に戻ります。
  • 肝臓腎臓の機能障害:まれに起こりますが程度は軽いことが多いです。

AC+T療法

抗がん剤(A:アンソラサイクリン系抗がん剤、C:サイクロフォスファミド、T:タキサン系抗がん剤)を使用した化学療法です。ACを3週間に一度の注射(1サイクル)を4サイクル行った後、引き続きTを3週間に一度注射(1サイクル)を4サイクル行います。副作用は以下の通りです。
  • 過敏症(直後):タキサン系抗がん剤の副作用です。
  • 嘔吐(1-3日後):まえもって予防薬を投与します。
  • 白血球減少(1-2週後):採血を行い調べます。抵抗力が弱まり、感染を起こしやすくなります。場合によっては白血球を増やす薬を注射したり、治療を延期することもあります。発熱等を認めた場合は入院が必要となることもあります。
  • 脱毛(3-4週後):投薬が終了したら、再び3-6ヶ月で元に戻るのが普通です。
  • 貧血、血小板減少(2-3週後):骨髄が抗がん剤に障害されるためにおこります。治療を延期することもあります。
  • 手足のしびれ(直後):個人によって症状の程度が違います。ひどい場合には治療を中止することもあります。
  • 筋肉痛(直後):個人によって程度の差があります。鎮痛剤等で対処します。
  • 肝臓腎臓の機能障害:まれに起こりますが程度は軽いことが多いです。
  • 心臓の機能障害:投与量がある一定量をこえると起こりやすくなります治療開始前に心臓の検査を行うこともあります。

内分泌療法

乳癌細胞は本来乳腺から出てきたもので、乳腺と同じ様に女性ホルモンの刺激を受けて活性化する。内分泌療法は、その乳癌細胞に対する女性ホルモンの刺激を絶つことで、癌を押さえ込むという治療法です。しかし癌が進行してくるとホルモンの刺激を必要とせず、自ら増殖する能力を獲得してしまい、内分泌療法の効果が弱くなります。手術の際に採取した乳癌組織でホルモンの感受性(ホルモン受容体)の有無を測定し、内分泌療法の治療効果を判定します。受容体のあるタイプの乳癌は全体の60-70%といわれています。感受性の無い場合は内分泌療法の効果が弱いため、化学療法が治療の主体となります。内分泌療法は、大きく分けて閉経前と閉経後とで違ってきます。閉経前は、卵巣からの女性ホルモン分泌が主体ですが、閉経後は副腎と脂肪からの分泌が主体です。その理由から、閉経前は卵巣の分泌を抑える働きのあるゾラデックス(LH-RHアナログ)が主に使用され、閉経後は女性ホルモンが乳癌細胞に働くのを押さえるノルバデックスなどの薬を使用します。術後補助療法、再発治療に使用します。閉経前と閉経後の主なホルモン剤は下記の通りです。

閉経前

薬品分類名LH-RHアゴニスト
薬品名リュープリン
働き卵巣でのエストロゲン合成を押さえます。

閉経後

薬品分類名アロマターゼ阻害剤抗エストロゲン剤
薬品名アリミデックス、アロマシンノルバデックス
働きアンドロゲンをエストロゲンに変換するアロマターゼを阻害します。エストロゲン受容体をふさいでエストロゲンが乳癌細胞に作用するのを妨げます。

3.放射線治療

乳がんに対する放射線治療は、乳房温存手術や乳房切除後の再発予防目的の照射、進行・再発乳がんに対する照射、骨・脳転移に対する姑息照射(症状を和らげる・進行を遅らせるための照射)等があります。
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