医療情報

内科(日本内分泌学会 指導医):山北 宜由

副腎とは?

腰の左右にある腎臓の上についている、幅2-3cm、長さ4-6cm、厚さ1cm程度で、重さ4-6gしかない小さな臓器です。しかし、そこでは、ヒトが生きていくためにはなくてはならない大切な幾種類ものホルモンが作られています。

副腎偶発腫瘍とは?

特に副腎疾患に特徴的な症状を示さず(あるいは気付かれず)、偶然CTや超音波(エコー)検査などで発見された副腎の腫瘍(厳密には、腫瘍でなくても、塊であればこのように表現します)をいいます。一般に、50歳以上のヒトでは、3%以上のヒトに認められるとされ、人体中で、最もよく見つかる腫瘍の一つです当院でも副腎に病気があると思わずに腹部のCT検査を1000例行うと、5-8例は発見されます。

副腎偶発腫瘍が発見されたらどうしたらいいのですか?

手術して取り除いた方が良いものか否かを見分けなければいけません。従って、担当医の指示に従って必要な検査を順を追って受けてください。鑑別しなければならない副腎疾患は、診断に専門的な知識を必要とすることが多く、以下に述べる初期の検査で異常があったなら、専門医に相談した方が無難です。

どんな副腎偶発腫瘍は手術した方がよいのでしょうか?

副腎の悪性腫瘍の可能性のあるもの

同じ悪性の可能性でも、他の臓器の悪性腫瘍が副腎に転移したものは手術適応があるとはいえません。

腫瘍が自分で勝手にホルモンを作っているもの

副腎は、脳下垂体からの命令や、他の種々の因子の刺激に反応して、種々のホルモンを産生、分泌していますが、こういう刺激とは無関係にホルモンを産生、分泌していることを指します。 2002年2月に、アメリカのNIH(National Institute of Health)における、「ステート・オブ・サイエンス会議(State-of-the-science conference)」で、「臨床症状のない副腎腫瘤の治療(Management of the Clinically Inapparent Adrenal Mass (Incidentaloma))」が、発表され、本邦においても、多少対処方法に多少疑義を唱える点もありますが、これが概ね、一般的な対処基準として評価されていると思います。

腫瘍が勝手にホルモンを作っているとどうなるのでしょうか?

副腎は沢山の種類のホルモンを作っています。それぞれのホルモンはそれぞれ異なる働きをもっていますし、生理的には重要な働きをもっています。しかし、腫瘍から過剰に分泌されますと、ホルモンによって、それぞれ特徴的な症状を呈してきます。もともとあった、こうした特徴的症状に医師が気付かずに偶発副腎腫瘍として発見されることもあるわけです。特徴的な症状を示すものに、クッシング症候群(コルチゾールの過剰分泌)、原発性アルドステロン症(アルドステロンの過剰分泌)、褐色細胞腫(カテコラミンの過剰分泌)があります。 しかし、たとえ、これらの疾患でも、症状に極めて乏しいものもあります。また、近年、副腎の重要なホルモンであるコルチゾールの自律分泌能を有する副腎腫瘍であるにもかかわらず、分泌能が比較的弱いため、いわゆるクッシング症候群に特徴的な、中心性肥満(四肢が細く胴体が肥満)、満月様顔貌などの体型を示さない疾患群が存在することが明らかになってきました。これらは、・副腎腫瘍からのコルチゾールの自律的分泌がクッシング症候群に特徴的な症候を示すには至らない状態(グルココルチコイド抵抗症を除く)・(厚生労働省副腎疾患調査研究班)と考えられる疾患群です。 本邦の疫学調査では、副腎偶発腫瘍2626例中234例(8.9%)、イタリアの疫学調査でも1004例中92例(9.2%)程度に発見されています。これらの、疾患群は、本邦ではプレクリニカル・クッシング症候群と命名されていますが、プレクリニカル・クッシング症候群が、普通の(顕性の)クッシング症候群に移行するか否かの確実な報告は未だありませんが、否定的な考えが多いようです。プレクリニカル・クッシング症候群を診断するには本邦では厚生労働省の「副腎疾患調査研究班」による診断基準(PDF:48KB)に基づいて診断するのが一般的です。しかし、プレクリニカル・クッシング症候群では、高血圧、糖尿病や耐糖能異常、高脂血症など、生活習慣病のうちの代謝疾患(メタボリック症候群)といわれる疾患合併の多いことが、当院での検討だけでなく、世界的に判明してきています。また、こうしたメタボリック症候群は副腎腫瘍を外科的に切除すると改善することが統計的には判明してきています。 しかし、ご存知のように、メタボリック症候群は副腎腫瘍によるプレクリニカル・クッシング症候群がなければ発生するものではありません。従って、この副腎腫瘍を手術したからといってメタボリック症候群が100%改善するとは限りません。従って、プレクリニカル・クッシング症候群を示す副腎偶発腫瘍を手術するかどうかは、担当医の説明を良く聞いた上で、判断する必要があるといえるでしょう。

副腎偶発腫瘍を手術しない時はどうするのですか?

前述しましたように、見つけた時に、たとえ直径1cmしかなくても、短期間のうちに急速に大きくなってくるのなら、悪性の可能性が極めて高いということになります。前述のアメリカNIHの報告では、副腎偶発腫瘍を長期間経過観察したところ、腫瘍の大きさは、大多数で不変であったが、5-25%で増大、3-4%で縮小したとされています。一般的に、最初の検査で手術をしないということになっても、まず、6-12ヶ月目にCTでそれが大きくなってこないことを確認しなければなりません。一方、ホルモン異常が生じるのは、全体の20%までともいわれています。NIHの報告に従えば、最低6ヶ月の間隔で2回行った画像診断で大きさが変化なく、4年以上ホルモン分泌異常がなければ、更に、経過観察のために検査を続けていく必要はないかもしれないということになります。 しかし、経過観察については、ケース・バイ・ケースということが言えますので、この点については、担当医の指示に従ってください。不明の点、疑問点がありましたら、ご連絡ください。

悪性か否かを見極めるにはどんな検査が必要でしょうか?

既に、体内のどこかに癌のある方にみつかった、副腎偶発腫瘍の場合、その4分の3はその癌が副腎に転移したものという統計結果があります。肺癌は副腎に転移しやすい癌として有名で、CTで約20%に副腎転移がみられるともいわれています。一方、副腎原発の悪性腫瘍は、副腎腫瘍4000例に1例程度と、かなり稀な疾患です。 しかし、悪性か否かを確実に判定することは、難しいことがしばしばあります。従って、副腎原発の悪性腫瘍を示唆する所見があった時は、手術をした方が無難でしょう。前述のNIHの勧告では、時に皮膚を介しての生検(針で副腎を突いて、副腎の細胞を採ってきて顕微鏡で調べること)を勧めてもいますが、本邦では、副腎という臓器に限っては、小さな組織を顕微鏡で観て診断することが不確実であるとのことから、あまり勧められていません。大きなものは、悪性である可能性が高いとのこれまでの報告から、CT、MRI、超音波検査で発見した時に大きければ手術すべきです。直径が6cm以上あれば、他の検査所見の如何にかかわらず、手術した方がよいというのが前述のNIHの意見です。 これは、直径4cm以下の副腎偶発腫瘍の60%以上は良性の腫瘍(腺腫)であったが、副腎原発の癌は2%以下であり、これと対蹠的に、直径6cm以上の副腎偶発腫瘍では癌の危険性は25%に増えるが、良性の腺腫の可能性は15%以下に減少する(ちなみに、直径4.1-6cmの腫瘍では、癌の確率は6%)という疫学調査結果に基づいています。これまで、手術適応基準の腫瘍直径を5cm、3cmあるいは3.5cmとするなど、報告によって違いがありました。あくまでも確率的な考えに基づくものですので、癌である確率を考えた上で、担当医の説明を十分聴く必要があります。 一方、大きさがある程度小さくても、形がイビツなもの、肝臓など、周辺臓器に浸潤している所見のあるものは、悪性である可能性がありますし、6ヶ月後の画像診断で明らかに大きくなっているものは、悪性である可能性が高いといえます。
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